連載 第3回 K子ちゃんとわたし|あり得ない最後の打撃
当然ながら日吉の駅前には受験生らしき人影はない。
横断歩道の前に合格電報注文取りのお兄さんが一人寂しく立っていた。
大幅遅刻の私の姿を見て、おかしいと思わないのか、一応声をかけてきた。
信号待ちの間、名前を書いてお金を払おうとしたが、財布がない。
カバンの中をかき混ぜて、底を丁寧に見ても、ない。
信号が青に変わり、そのまま「財布がない」、と言って立ち去った。
ぐっ、財布がない・・・。財布がない・・・。
と内心あせりながらも、とにかく教室目がけてダッシュする。
当然ながら、広い構内に人影はなく、しーんと静まり返っている。
いったい、本来の開始時刻からどれほどの時間が過ぎていたのだろうか。
私が息を切らして、教室に駆け込むのと、
試験担当官が前方の壇上にあがるのは同時だった。
彼は、彼の目前の空席を指し棒でコンコンコンと突き、私を導いた。
もう2時間近く待った人もいたのだろうか・・・。
周囲の受験生からの冷たい視線は当然であった。
私が一番真ん中の一番前の席に着くと同時に、
試験開始のベルがなり、問題用紙が配られた。
何も考える時間を与えられなかったのは、むしろラッキーだったのかもしれない。
1限目の英語を無事終えると、俄かに財布のことが気になる。
果たして、こういう場合、つまり昼食代も帰りの電車賃も無い場合、どうしたもんか。
交番のおまわりさんはお金を貸してくれるのだろうか・・・。
などと、つらつらと考える。
と、その時、壇上を横切った見覚えのある顔・・・。
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